みそラーメン屋の店長さん

実は何年も前に健康診断で血圧がちょっと高いと引っかかって以来、毎朝血圧測定をする習慣がついてしまった。本当は夜、寝る前も測った方がいいのだがお酒を飲んでいるので止めている。

アルコールを辞めれば一番血圧が下がるのだろうが、そう頭で納得しているのに体がいうことをきかない。であれば降圧剤の薬を飲むか、食生活を改善するしかないわけだ。

周りの年配の人をみると、ほとんどの人が血圧を下げる薬を飲んでいるように思う。昔、ある人から血圧は齢とともに上がって行くものだから我慢して食べたいものを食べないより、薬を飲んで好きなものを腹一杯に食べた方がいいんだと言われたことがある。

その人は美食家でいろいろ美味しいお店を回るのが趣味のようだったのだが、確かに遠慮なく油っぽい料理からお酒まで味わっていたような気がする。ただ、こんなことも言われた。血圧の薬を飲むと死ぬまで飲み続けなければならないのだと。その言葉を聞いて私はゾッとした。言葉は悪いがなんだか麻薬か覚せい剤と同じもののような気がしてしまった。

美味しいものを食べる代わりに、薬を死ぬまで飲み続けなければいけない。上手く説明できないが、自分の体を薬でごまかしてまで食べたいその美味しさとは一体何なんだろう?

幸いにして私の場合、食に対する欲望がそんなに強い方ではないので、できるだけ薬を避けたいと思っていて毎日の食生活を気にするようにしている。

減塩醤油を使ったり、朝の血圧が高ければ漬物などを食べないようにしたり、最大の変化は毎食飲んでいておかわりまですることがあったみそ汁を今は1週間に1回程度しか飲まなくなったことだ。みそ汁の代わりにお茶を飲んでいる。

そんな食生活をしていると、無理にダイエットしてリバウンドするかのごとく月1回か2回たまにお酒をのんだ後、無性にみそラーメンが食べたくなり近所のみそラーメン屋さんに行ってしまうのだ。

そのみそラーメン屋さんで夜勤で働いている店長さんと懇意になってしまった。もう最近は結構酔っぱらって言いたい放題、いろいろな話をしてくるのだが嫌な顔ひとつせず私の話を聞いてくれる。今では唯一の私のおしゃべり友達なのである。

最初に口をきいたのは、確か一緒に働いていた店員さんが他のみそラーメン屋で店長をやっているという風の噂を聞いたと話しかけられたことだったように思う。それ以降なんだか、このみそラーメン屋に行く度に競馬の話やら、宝くじの話やら、みそラーメンをすすりながら世間話をたくさんして来る場となった。もう外で知り合いとお酒を飲むこともほとんど無くなったので、店長さんと話すことが私のストレス解消だったりもする。

最初にビール1本頼んで飲み干してから、みそラーメンを食べるのだが、話がはずむともう1本追加で飲むこともある。ツマミは前は志那(しな)チクの唐辛子漬けとゆで卵1つだったが、今は血圧を気にしてモヤシだけ食べるようにしている。

結構、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な振る舞い、たとえばお店から出ていく時に”ごちそうさま。”とかも言わずに無言で出口の扉を開けても、必ず”ありがとうございました~。”と、お店がいくら混んでいても私の背中に声をかけてくれたりしてくれるところなんか、ものすごくいいと思っている。

他のラーメン屋で食べた後、”ごちそうさま”といってカウンターの上に食器を返すのが礼儀だと暗黙の了解のようになっているのは前からどうも居心地が悪いと思っていた私としては、こうした自由な空気やどんなに態度が悪くても客は客として扱えというプロ根性をこの店長さんの人柄に見るのだ。

そんな店長さんと仲良くなって何年も経ってから、店長さんが若い頃、力士だったことを話してくれた。

力士(りきし)~っ!?

店長さん力士だったの・・・。カッコいい!!!!!四股名(しこな)は何だったの?とか、どこの部屋にいたの?とか、どんな相撲とってたの?とか、番付どこまで上がったの?とか、はじめて自分の目の前に普通じゃない人間が現れたので、戸惑って素人らしく根掘り葉掘り訊いてしまった。

残念ながら四股名(しこな)は未だに教えてくれないが、佐渡ヶ嶽部屋で、押し相撲だったらしく大鉄(だいてつ)とは何勝何敗かと言っていた。大鉄なんて昔、確か小結(こむすび)くらいまで出世した大柄な力士だったと思ったのだが、当人は関取にはなれなかったようだ。

その日以来、店長さんから昔の角界のいろいろな内輪話を聞くのが楽しみになった。ちゃんこの味は一門によって全然違うということ、時津風のちゃんこは甘いとか二所ノ関一門はしょっぱいとか、琴風(昔の元大関)は入門したてのころから特別扱いで、学校の成績が優秀だったとか、昔は朝稽古を見学に来たタニマチのお金持ちが稽古の勝敗を賭けていたこととか、このネット上で書いていいのかどうなのかわからないような危ない話とか、なんだか私にとって夢がいっぱいつまった話をたくさんしてくれる。

今の相撲協会の理事長、八角親方は現役の頃は横綱になるまで保志(ほし)と言ったが、店長さんは保志やケーキ好きで有名な横綱の大乃国を新弟子時代に相撲教習所で教えていたってことなのだから大したものである。

この齢になると、他人(ひと)とはもうほとんど友達として知り合うこともないのだろうが、先方はどう思っているかわからないが私は店長さんを心を開いた友達だと思っている。”ごちそうさま。”も言わずにお店から出て行っても、次行くと”毎度(まいど)”と声を掛けてくれる。

店長さんには自分の素性や音楽をやっていることも何も話はしたことがないが、チャンスがあれば自分のライブに招待できないかと思っている。その時は四股名教えてくれるかな?

琴味噌という四股名だったらどうしよう、、、

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