味噌ラーメン屋の夜 パートⅡ

今年は暖冬らしいが、今日は幾分寒い。クリスマス前なのに気分も寒いし、懐(ふところ)も寒い。こんな夜には体が温まる味噌(みそ)ラーメンを喰いに行くしかないかなと先日またまた馴染みの味噌ラーメン屋に行ってしまった。

今回は時間も多少遅く行ってみた。店の扉を開ける前に中をチラッと覗(のぞ)いてみると、いた!店長さんが湯気の中でラーメンを作っている。そう、この店長さんがいないと店に入らず知らんぷりして帰ってこようと思っていたのだ。

私が懇意にしているこの店長さん、実は若い頃は佐渡ヶ嶽部屋の力士だった。四股名(しこな)は未(いま)だに教えてくれない。心の中では勝手に”琴味噌(ことみそ)”と呼んでいる。相撲の後遺症で脊髄がやられていて近くの針治療に通っている。その治療院なかなか腕がいいらしく、腰痛持ちであれば行ってみればと勧められたこともあった。私にとってはどうでもいいことなのだがサザンオールスターズのバックコーラスの女の人も通っているとのことだった。この店長さん結構芸能界好きなのだ。この味噌ラーメン屋に来た有名人の名前を何人も上げて自慢したりもする。ただもう酔っぱらって好き勝手に話をするから嫌(いや)みにも聞こえて来ない。私にとってみれば楽しい話し友達なのだ。

「まいど~」と扉を開けると今回は元気よく声をかけられた。若い頃は相撲甚句(すもうじんく)もやっていたのかな?今度訊いてみよう。店長さんに会うのは久しぶりだ前回、前々回と来た時には店にはいなかった。ラーメンとビールの券を買って渡すと、「※有馬(ありま)やるんすか?」と訊いて来た。この会話の入り方がたまらない。もう毎年毎年何度も同じ会話の繰り返しじゃないか!この店長さんとの会話は常に競馬の話から始まるのだ。去年も一昨年も、もう何年も年の瀬は有馬の話をしてきたじゃないか!私の方も、もう飽きた、いい加減にしてくれよとは云わない。「そりゃ、やるよ。1年に1回、有馬だけやると決めているんだからさ。」と答えて、モヤシをつまむ。何年も同じ答え方だ。(笑)

※有馬記念 JRA競馬のその年活躍した人気馬が出走し盛り上がる年の瀬の一大イベント。

そしていつも先週のレースの結果の話に移り、店長さんが得意にしているボックスやワイドと言った買い方で当たった外れたの話になり、私が古い人間なので馬連でしか買ったことがなかったので、ボックス買いの説明を受けるのだがチンプンカンプンになり、客がいなければその内大相撲の話になったりする。

今回は周りにお客さんも結構いたのでそこまで会話が弾む暇もなかったのだが、店長さんが主張するには今年の有馬は”キセキ(馬の名前)”をマークしておいた方がいいと云っていた。もうここ何年も競馬に興味を失い、どんな馬が走っているのかも知らない私としてはたまには店長さんの言うことを信じてみようかと、有馬の出走馬をウエブで調べてみると”キセキ”は外国人騎手の騎乗になっている。何年か前、外国人騎手流しで馬券を当てて、店長さんから”さすが!”と云われたことを思い出した。それ以来、店長さんも私に一目(いちもく)置くような視線に変わって来たような気がしないでもない。(笑)

武豊(名前:たけゆたか。日本人で最も人気のある騎手)の時代でもないだろうしな。時代はインターナショナルなんだから今回も外人騎手流しと行くか!と思いきや、同じ手を二度使っても面白くなさそうなので、実は何にも決めていません。(笑)

瓶ビール1本飲み干すと、店長さんが「そろそろ作りますか?」と訊いきて頼むと出てきた味噌ラーメンはトウモロコシが山盛りになっていて、チャーシューが5枚くらい乗っていた。こんなラーメン頼んじゃいないぞ!量が多すぎて喰えないじゃん!と内心思いながら、がんばってその夜は全部すすって来た。

ヨッ!琴味噌。粋(いき)だね

本当の四股名(しこな)は何て言うんだろうな?教えてくれる日が来るのだろうか?たぶんその前に別れが来るような気が薄々(うすうす)はしている。人は人の間(あいだ)で生きているのだ。それまでは出会いを楽しみたい。来年お店に行くとまたラーメン食べる前に有馬がどうだったとかで話が始まるんだ。もうおかしいほど決まっているのだが、これでいいのだ。

これが世の中のどこにでもある、大の大人の会話なのだ。

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