今日は日曜日。井の頭公園に唄いに行く予定だったが、取りやめた。多少涼しくなったのでこの機会に夏の日差し対策として屋根から垂(た)らした朝顔ネットを取り外し、今、とても清々(すがすが)しい秋の日差しが右の窓から差し込んでいる。天気予報では気温が急激に下がるということだったのに、そんなこともなく、半袖(はんそで)になってこのブログに向かっている。
目薬を差した。このブログのためだ。最近は目が調子悪くても我慢して、目薬をなるべく差さないようにしている。目薬だけでなく、できるだけ薬を使わないようにしているのだが、この歳(とし)になるとなかなかそう言うわけにも行かず、最近は咳(せき)が止まらないので、医者から処方された咳止めの薬を飲んでいたりする。
唄い過ぎのせいなのかもしれないが、季節の変わり目になると咳が出て来るのだ。前回、夏前には飲み薬をいくらもらっても効かず、最後は吸い薬を吸ってようやく治ったという経緯がある。今回はそこまで重症化しておらず、飲み薬だけで治そうとしているのだが、なかなか上手くいかない。
こうした小さな衰えを、見て見ぬふりをしつつ、気分だけは今も若者のように振る舞っている自分がいるのだが、隠そうにも隠し切れない事実に気づき、先日愕然(がくぜん)としてしまったのだった。それは、この1年、自分は1冊の本も読んでいないという事実だった。その詳細を語ることにしよう。
この街に引越して来て以来、いつも土曜日午後には隣町のクラシック喫茶に行って音楽を聴き、その後、駅前の本屋に寄って立ち読みをするのが常(つね)だったのだが、その本屋が昨年末に閉店してしまうということになり、もうこの本屋に立ち寄ることも無くなるだろうと、かねてからずっと欲しかったのだが、料金が高いので買いそびれていた単行本を思い切って買ったのであった。
その本というのは、ガルシア・マルケスの「100年の孤独」という小説で、ずっとこの本屋に通って以来、この単行本1回読んでみたいなと、毎週この単行本が入っている書棚の前を行ったり来たりするのだった。なぜ、そんなに読みたかったのに、ためらってしまったかと言うと、それは料金だけではなく、長編小説だからだ。分厚い単行本なのである。ドストエフスキーの「罪と罰」を読んでいた時のように、買ったはいいが、長編小説を読むと、多大な時間をとられてしまうと思ったからだ。
買おうか?どうしようか?何年もこの書棚の前で、この「100年の孤独」の単行本背表紙タイトルを眺めて来たのだが、気づいたことがあって、結構売れるのである。半年に1回は書棚から無くなっていて、その都度、取り寄せするのか?数週間後には、また書棚に並んでいるのである。
この本売れている。こんな小難しそうで、長い小説、しかも料金も高い本を、どんな奴が読んでいるのだろう?と空想しつつ何年も経ってしまったのだが、いよいよこの本屋が閉まるという段(だん)になって、もうこの機会を逃すと、この本を読むことも無いだろうと思い、決心を固め、とうとう買ってしまったのであった。
しかし、その後、この本屋は閉店したのだが、同じ場所に大手の本屋が出店して来て、結局は今も店名だけが変わって、書店は続いている。相も変わらず、自分は毎週土曜日夕方、この書店に行くのだが、しかしながら「100年の孤独」は書棚には置いてないのだ。ガルシア・マルケスの他の小説「コレラの時代」は置いてあるのだが、「100年の孤独」は置いてない。「100年の孤独」の分厚い単行本をこの書店で最後に買ったのは自分なのだなと、何となく、くすぐったい気分があったりなんかするのだが、いざ、買ったこの本を家で読んでいたのかと言うと、はじまりの20~30ページだけ目を通しただけで、まったく読む気にもならず、部屋のスピーカーの上に置きっぱなしになっていたりなんかして、もう1年近く経ってしまったのであった。
せっかく満(まん)を持(じ)するような気持で買ったこの本を、なかなか手にとらなかった原因は、まず、上にも書いたが目の調子が歳と共に悪くなってきて、読み進めると視界がかすれてきてしまうのだ、気持ちが盛り上がる前に、文章が読めなくなってしまって、目が疲れて暗闇を求めてしまい、布団の中で寝てしまうのだ。また、ユーチューブやチックトクで自分の動画を上げるのに、時間を取られてしまうということもある。
「100年の孤独」を読まなかった、この間、春には、他の書店に行くと、この小説の小さくなった文庫本が、店頭に山積みされているではないか。帯(おび)には「100年の孤独」待望の文庫化!と刷ってある。おい!新潮社いい加減にしろ!文庫本を出すんだったら、早く言ってくれ!高い単行本を買わなくてもよかったではないか!と、悔やんでも悔やみきれない思いもしてしまったのだが、あとの祭り、よくよく考えると、昨年末にこの本を買って以来、1冊も本を読んでいないことに気づき、ここまで本を読まなくなったのはいつ以来だろうかと思いを巡らしたのであった。
そんな、こんなで、先月、このままでは今年とうとう1冊も本を読まなくなってしまうぞと危機感を募らせ、空いている時間を見つけ、急いで「100年の孤独」を読破したのであった。内容は無茶苦茶おもしろいものであったが、そんなことよりも、自分が1年間何も読まなかったという問題意識の方が、この本の印象として自分の人生の最後、頭の中に残っていくのだろうなと思ったのである。
孤独な自分の人生が、100年では無く、1年だけで良かった。
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